ちょっとボトムアップな話

予定を変更して、ボトムアップな話をしよう。ここらへんの知識がないと説明するのも大変だし、面白さも伝わらない気がするので。2次元多様体について書いていて、詰まってしまった、というのもあるが。

n次元ユークリッド空間

n個の独立な方向にまっすぐずっと進んでいける空間のこと。記法としては Rn とかく。
R1 (1次元ユークリッド空間) は直線で R2だと平面。

R3 (3次元ユークリッド空間)についてはこの世界を思い浮かべてほしい。(星にぶつからなきゃ) どこまでも宇宙をまっすぐ進んでいけそうでしょう。これも一般相対性理論が出ると否定されるんだけど、日常生活をすごす (っていうか、冥王星が惑星かどうか論じる) ぐらいならこれで十分だ。

4次元以上のユークリッド空間なんて想像つかないので、ここは「そういうものだ」と理解を棚上げしといてほしい。トポロジーをがんばって学べば想像できるようになる、かどうかはしらない。でも何らかの形で把握できるようになるのはたしかだ。

n次元多様体

多様体の定義らしきものをしていない気がしたので、ここで説明する。

「どの点でも近くを見ている限り、 n次元ユークリッド空間に中にいるのと区別つかない (同相) 」のが n次元多様体だ。例によって曲がり方とか長さは無視して。

1次元多様体で言えば、例に挙げた 4つの線が、どの点でも部分的にみれば直線と同相に見える図形だということだ (境界点だけはちょっと特別だけど)。「枝分かれをしてたら、その部分では直線と同相ではない」というのはなんとなく理解してもらえるだろう。

n次元ユークリッド空間自体は n次元多様体の一つだ。それももっとも単純な形の。
ちなみに境界はないがコンパクトではないので、今回の Poincare予想の対象にはならない。

ほかに n次元多様体として n次元球面というのがある。これに関してはあとで話す。

多様体として宇宙 (時空) をみると。

Newton は、この世界は 3次元ユークリッド空間だと思っていた。どこまでも続く平坦な空間。幸せな世界だ*1。地球の表面にへばり付いているわれわれにとっては、それでも十分すぎる。

でも一般相対性理論によれば、この世界は曲がっているのでユークリッド空間ではない。まあ、曲がっていること自体はトポロジーでは知ったこっちゃないんだけど、もしかしてこの宇宙は閉じている (= コンパクトな) んじゃないか、なんて話も出てきた。つまりこの宇宙は 3次元多様体ではあるだろうけど、トポロジカルにみても変な形をしているかもしれないと。

3次元多様体をというのは近くを見る分には 3次元ユークリッド空間と見分けがつかない。つまり、われわれが自分の近くを観測してユークリッド空間と同相に見えるっていっても、全体としてユークリッド空間と同相であるとはいえない。

考えてみると、小島定吉先生が言ってたのはこのことかな。でも宇宙の基本群を求めるなんてできなさそうだけどなあ。

さらに最近の超ひも理論あたりでは、宇宙 (というより時空) は 11次元多様体なんじゃないか、ってことになってるらしい。よくわからねえ。数学者たちも、趣味でやってた高次元幾何学がいきなり物理学に応用されてびっくりだろうな。というより、超ひも理論の最前線にいる人は半分ぐらい数学者みたいなもんだ。特に Witten (M理論とかいうすごいらしい理論を発見した人) はフィールズ賞まで受賞しちゃってる。すごいな。

多分、そういう人たちは時空はどんな形をしてるのか、なんてことを一所懸命計算してるんだろうなあ。でも彼らに Poincare予想は関係してくるとは聞いたことがない。「3次元なんて、そんな低次元のこと知らんよ」とでも思ってるのかもしれない。

n次元球面

普通、球面って言えばゴムボールみたいなのだけど、これを一般化したのを n次元球面って言う。この言い方でいえば、普通の球面は 「2次元球面」だ。1次元球面は円周のことだ。面にはなってないけど球面っていうんです、ここでは。

n次元球面は n次元多様体である。1次元多様体の例の中にあったわっか、あれが 1次元球面 (と同相なもの) だ。

n次元球面は Sn と書く。ただし、ここの n は掛け算を n回する、という意味ではない。単に n次元多様体だ、ってことを表していると思ってほしい。

昔俺は混乱したんだけど、S2 は球面、ピンポンだまであって、平面(R2) に上に書いた円周じゃない。円周は S1 だ。同様に、Poincare予想で問題になっている S3 (3次元球面) は俺たちが見ることができるピンポンだまじゃない。

Poincare予想の通俗的な説明ではドーナツとピンポンだまを例にとって「輪ゴムが 1点に縮まるのはピンポンだまに限る」とか書いている*2けど、それは 2次元多様体に関する説明だ。あたりまえな予想だなあ、と思った人もいるかもしれないが、2次元についてだったら確かに簡単だ。とっくに解決している。

本当の Poincare予想は 3次元多様体、簡単には描写できない多様体についての予想だ。ここで、次元の差は本質的である。通俗的に説明するためにしょうがないのかもしれないが、1次元上だってことを注記してほしい。

じゃあ、3次元球面ってのはなんなのか、っていうのはやっぱり数式を出さずに説明するのは難しい。気合があったら挑戦してみるけど。

*1:カントって人もそうだと信じて哲学的議論をしたらしいね

*2:はてなキーワードのもそれに近いな。市民になったから書き換えちゃおうかな