2次元多様体を見る

しつこくポアンカレ予想について。いや、カタカナで書かないとはてなキーワードからリンクされないから。

忘れかけてるので、自分でまとめてみると、今は一所懸命多様体ってものを説明しているのだった。で、1次元多様体の例多様体の定義から n次元の例を説明して、今度は 2次元多様体について説明しようと思っているわけだ。

Poincare予想に 2次元多様体は直接は関係ないけど、3次元多様体を想像するときの助けになる気がするので、やや詳しく説明する。

特に気にしてほしいのは「多様体の中に入って多様体を考える」ことだ。多様体を外から眺めていたのでは、あまり面白い多様体には出会えない。有名なものではクラインの壷など、3次元空間中ではありえない多様体も多いからだ。中の人からはどう見えるのだろう、という視点で見れば、その多様体の奇妙さもわかるかもしれない。

ましてや、3次元多様体になると外から見ることは不可能だ。必然的に中に入りまわりを見回して動き回ってみて、「なんかユークリッド空間とは違うなあ」と感じてもらうしかない。

4次元以上になると中に入るのも無理になるので、ちゃんとした数学の方法論が必要になるんだけど、今回は3次元球面までなのでこの辺でごまかしておく。

ここでは、2次元多様体の例として、以下のものを簡単に説明する。何のため、それぞれ同相ではない。

R2 : 2次元ユークリッド空間 (real space)

いわゆる普通の無限に広がった平面だ。いわゆる幾何学の世界でおなじみだろう。トポロジーの世界では曲がったりしてても同相である限りおなじだ。

境界はないがコンパクトでもない。

D2 : 2次元円盤 (disk)

境界のある2次元円盤。境界が角ばって正方形などになっても同相だ。

メビウスの輪 (Moebius Ring)

境界のある、向き付け不可能な 2次元多様体の例。

「向き付け不可能」とは、一周すると裏返ってしまう性質のこと。

S2 : 2次元球面 (sphere)

球面、ゴムボールとかピンポンだまと形容しているもの。トポロジーの世界では立方体でもでこぼこしていても同じだ。

境界がなくコンパクトな 2次元多様体のうち、もっとも単純なものである。

見慣れたものではあるが、そこで生じる現象は結構直感に反している。たとえば、日本からアメリカに行く飛行機は、アラスカを通ったほうが近いとか。

後の解説では、これに「入ってみる」ことを説明するつもりだ。

T2 :2次元トーラス (torus)

ドーナツ(の表面)、取っ手つきのコーヒーカップ(の表面) とか呼ばれる。結構素直な一面も持つ。

これもコンパクトで境界がない多様体である。そんな多様体の中で 3次元ユークリッド空間内に埋め込めるもののうち、球面の次に複雑なもの。

P2: 射影空間 (projective space)

これは変な多様体だ。3次元ユークリッド空間には埋め込めない。いわゆる「不可能図形」だ。

メビウスの輪と同じく「向き付け不可能」という特徴を持つ。

この項ではあまり触れるつもりはないのだが、次のクラインの壷を例に出しておいて、より原始的である P2に触れないのも変かなあ、という気がするので出しておく。

K2: クラインの壷 (Klein Bottle)

不可能図形としてより有名なのはこのクラインの壷だろう。P2を二つくっつければできるので、より原始的な P2のほうを先に説明させてもらったが。

メビウスの輪を二つ、ふちに沿って貼り付けていってもできる。

とりあえずのまとめの表

記号 境界 コンパクト 向き付け 基本群 名前
R2 なし × 可能 自明 ユークリッド平面
D2 あり 可能 自明 円盤
- あり 不可 Z メビウスの輪
S2 なし 可能 自明 球面
T2 なし 可能 Z2 トーラス
P2 なし 不可 Z/2 射影空間
K2 なし 不可 ?*1 クラインの壷

「基本群」っていうのがこっそり付け加えられているけど、これが実は Poincare予想ではむちゃくちゃ重要な概念だ。どんなものなのかは少しまって説明する。

とりあえず「基本群が自明で境界がなく、コンパクト」という条件をもうすこしで説明しきれるはずだ。多分。

*1:実は知らない