ガレージ原子炉の補遺

先日の核融合高校生のネタはありがたく 50被ブクマを頂戴したのだが、その後、いくつか記事を漁っていたらより深く掘り下げたのが見つかった。とりあえず自分へのメモもかねてまとめてみる次第。

本当に核融合したのか? トンデモなの?

ここらへんはまったくのガセネタではない、ということになるだろう。

Fusor.netはそれなりに知識があるコミュニティであり、そして慣性静電綴じ込め型の核融合装置はアマチュアでも資金的にはどうにかなるレベルだということだ。もちろん技術的には無茶苦茶難しいが、才能と努力と親の援助でなんとかなるレベル。

ということで、まったく核融合の目がないということはない。

ただ、DocSeriさんのentry「「高校生が自作装置で核融合」ってホント?」 -LiveDoorニュースにあるように、実際に核融合に至ったかを疑問視する節もある。

この LiveDoorニュースは (元ネタとなった記事と違って) かなり技術的に詳しくためになるのだが、いくつか事実誤認に基づき「現時点での情報を考える限り、重水素核融合が起こった可能性は低い」と書いてある。俺としては Olson君を擁護しなくてはならないだろう。

具体的な誤りについてをいくつか上げてみると:

  • みている写真が違う。2006年6月当時の「プラズマできたぜ!」という投稿のものをみて判断している。実際にこの時点で核融合ができたとは Olson君もいっていない。核融合できたと主張しているのはOlsonの2006年9月の投稿だ。専用の検出装置 (バブル線量計)で「2個の泡を確認した」ということだ。よってこの写真をみて「プラズマだけでは?」といっても意味がない。
  • ポンプの種類の誤認。6月の写真をみて「ロータリーポンプを使っている」と書いているが、コメント欄には「吸着ポンプを売って拡散ポンプにするのがいいんじゃ」ってアドバイスがみられる。9月の時点では変わっていた可能性はたかいだろう。
  • 中性子の検出について。これはバブル線量計というものを使ったらしいのだが、これがどの程度入手、取扱いが難しいのかは、俺は知らない。でも「バブルディテクターは安価で測定も簡単なのですが」なんていうのをみると、そんなに無理なことじゃないのかなあ、と思ってしまう。

ということで、俺は Olson君を信じて、2006年9月の時点で核融合が成功していたと思う。

名前の問題

核融合したとしても、この少年が作ったのは「原子炉」なのか、という問題がある。

まず、「原子炉」は普通核分裂を行う装置の呼称だ。ウランとかプルトニウムとかの重い原子を分裂させる装置である。今回は水素という一番軽い原子からヘリウムを作る「核融合」なので、厳密にいえば間違いだ。

さらに「炉」というのは核反応状態が持続しなくてはいけない。核分裂炉にしても核融合炉にしても、その系の中で定常的に反応を起こさせ、制御できる。水爆は核融合を行っているが、一瞬であり制御も不能なので核融合炉とはいえない。

この Olson君が作ったものも定常的とはいえないので、核融合炉というのは厳しいだろう。核融合装置というのが正しい。ということで「家庭用原子炉がポピュラー」っていうおれの表現は間違いでしたね。ペコン。

重水素の入手

これはスラドのコメントにありました。「ここで買えるよ」だって。買えるんですね。しらなかった。

まあ、簡単に数十人を殺す装置が買えるアメリカですから、DDMO (Di-deutrium Monoxide) ぐらいの科学物質ぐらい買えて当然でしょう。

安全なのか? そんなもの作っていいの?

Fusorへの投稿によると政府の検査済みだということらしい。Michigan公衆衛生局(?)が検査に来てパスしたんだって。アマチュア向けにもそんな検査してくれるとは。日本にも同様のサービスあるんですかね?

ちなみにこの核融合装置、電源を切ればプラズマも雲散霧消してしまうので放射線的な危険性は非常に低い。それより無茶苦茶高電圧 (50kVとか) を使うので、それの扱いの方が難しいそうだ。下手したら簡単に感電死するレベル。そういう方が危険だ。

核兵器に直接転用できる技術でもないので、北朝鮮に拉致されることもないだろう。

まとめ

Olson君は慣性静電綴じ込め型の核融合装置を作り、実際に重水素を使った核融合を起こした。これは合法的なことであり、危険性は改造車とかより低いだろう。

というのがおれの現時点での結論です。まあ、実は積極的な証拠っていうのは Olson君の投稿しかないんだけどね。2chですれた日本の高校生みたいにネタ投稿をバリバリするとは思えないし。勘違いはしている可能性あるけど。

おまけ

前の entryでちょこっと言及した、増殖炉オタク、David Harnの Wikipediaの記事の和訳を見つけましたid:korompaさんありがとうございます。